DID(分散型アイデンティティ)は、Web3.0以外でも次世代の現実世界のボーダレス経済圏構築、インターナショナルな人材採用のマストアイテムです。技術的なハードルとプライバシーの問題に対して、ブロックチェーンは非中央集権と分散性を維持したままでの情報確認手法(ゼロ知識証明など)を開発しています。CardanoでもDID・真贋鑑定ソリューションに取り組み、国内外での実験を進めています。

国境を超えたクレデンシャル情報・真贋鑑定

インターネット上で顔も見えない、異なる国家に所属する人の経歴を確認することは容易ではありません。採用側からすると人物特定の不確実性は大きなリスクです。提出された教育履歴や経歴の真偽は、日本国内であれば大学の卒業証書・成績証明書・国家/民間資格などである程度把握できますが、海外の経歴になると一部の先進国を除き確認は困難です。これは、国際的な人材流動性の大きな障害となります。

一方で、雇用者にとってのプライバシーも重要であり、これにより人材派遣会社などの仲介やビジネスマッチングサービスなども存在しますが、カバーできない範囲は多く存在します。よって、プライバシーを保ったままでの、効果的なクレデンシャル情報の活用方法は、国家や主要産業のインフラとなり得るポテンシャルがあります。信頼性の低い地域や産業でも、ブロックチェーンによる信頼性の裏付けが担保になる可能性は十分にあります。こうした背景から、Cardanoをはじめとしたブロックチェーンでは、DIDと真贋鑑定サービスの開発に取り組んでいます。

Cardano開発企業のIOGが提供するDIDソリューション

Cardanoでは、DIDソリューション(ある意味での人物の真贋鑑定)、モノの真贋鑑定およびこれらを強化するトレーサビリティソリューションを開発しています。「Atala」と関されたDIDシステムAtalaPrismと真贋鑑定システムAtalaScanは、すでに国家による認証を経て実装実験が進んでいます。また、現在開発中のトレーサビリティサービスとしてAtala Trace(仮)についても、ワインの生産過程などへの応用検討が進められています。

Cardanoアフリカ戦略の中核:教育ID

Cardano開発企業のIOGは2021年4月にエチオピアの教育省と正式提携を結び、AtalaPRISMを活用して現地の500万人の学生に教育IDを発行することを発表しました。500万人の新たなCardanoユーザー誕生の可能性は、ユーザー数の二乗とネットワークの基本価値が比例するブロックチェーンにおいて大きな意味を持ちます(メトカーフの法則)。また、国家認定と大量のユーザー使用実績は、これからのDID採用戦略において大きなアドバンテージとなります。

IOGは2020年からアフリカでの事業展開に着目しており、スマートコントラクトセミナーやタンザニアのワールドモバイルとの提携などを精力的に進めています。関連会社を含めた投資額はすでに100億円を超えています。

真贋鑑定・トレーサビリティの保証:製品ID

IOGでは、近距離NFC(近距離無線通信)チップ搭載のスマートシールを活用した真贋鑑定サービスAtalaScanを開発しました。本チップの特徴は、スマートシール内に2つの近距離NFCを搭載することで、“剝がされた形跡”、つまり、シールにより真贋鑑定が無効化されたという情報を提供できます。これによりスマートフォンで簡単に真贋鑑定結果を確認することができます。

高級ワインをはじめとする高級食品や鉱物など、見た目で区別することが非常に困難な製品に対して、真贋鑑定保証という新しい付加価値を追加します。

ジョージア国では、AtalaScanを国家的なワインの品質保証に取り入れることを決定し、Cardanoチェーンによる真贋鑑定サービスの本格化が始まっています。また、ブドウの栽培からワインの生産工程に至るまでの生産過程および輸送・保存過程を追跡する新しいトレーサビリティサービス(仮名AtalaTrace)についても開発を進めています。ワインのような保管状態までが品質に大きく影響するようなプロダクトでの実績は、今後の真贋鑑定・トレーサビリティサービスの普及を加速していくと予想されます。

デジタル社会における本人確認の重要性:Trusted Web

現実世界とインターネットを含むWeb2.0、Web3.0の時代では、「情報」自体に価値が発生します。しかし、情報の発信者の正確性が問題視され、各種のファクトチェックをどのように機能させるか?が大きな課題です。現実世界では、発信者が誰であるか?(国家・企業・団体)などを示すことによって情報の信頼性がある程度担保されますが、インターネットの世界では、発信者自体の信頼性が求められます。

こうした概念に対して、「情報の確からしさ」を担保するTrusted Webの概念構築はすでに国家レベルでの重要課題として認識されており、デジタル庁から実証事業が募集されています。(代理募集:NTTデータ研究所)

AtalaPrismを使用したTrusted WebにおけるDIDの実証実験:DID&Trusted Web

日本の国家戦略ともなったTrusted Web研究において、Cardanoは他のチェーンよりも先駆けて注目されています。国内企業(ビー・エム・ピー株式会社)が仲介となりCardano開発企業のIOGと電通グループは、 AtalaPrismを用いてデジタル庁が推進する実証事業に取り組みます。

中小法人・個人事業主を対象とする補助金・給付金の電子申請における「本人確認・実在証明」を、Trusted Web技術により明確に把握できる仕組みを開発し、以下の3点におけるブロックチェーンおよびDIDソリューションの有用性を確かめます。

  1. 個人が市役所・税務署等で発行される各種証明書を横断的に管理し、本人情報の収集を簡略化できるシステムを実現する。
  2. 電子署名及び暗号技術を用いることで、証明書等のペーパーレス化に加え、クレデンシャル(証明書)データの真贋性が保証される。
  3. 質の高い本人情報を、民間企業における情報の信頼性評価や、国の政策・施策立案に伴うデータ分析に活用できる。

これらは、現在、政府で議論されている免許証などのマイナンバーカードへの一本化における、マイナンバーカードの場合発行に1カ月かかるため、免許証の廃止に伴う様々な問題、再発行時の本人確認書類をどうするか?などに対するソリューションともなりえます。ペーパーベースにおける確実性・プライバシー保護と引き換えになる発行までの時間について、確実性と即応性・セキュリティを3立させた新しいソリューションがそこまで来ています。